増資インサイダー横行
日本の株式市場が増資インサイダー問題に揺れているという。
事前に入手した増資情報をもとに発表前にその企業の株式を空
売り、安値で買い戻して利益を得る。最近の市場で指摘される
こうした行為は、日本固有の資本調達手法や法規制が投機筋に
つけ入る隙を与えた面もあるという。不正摘発に加え、グロー
バル化に取り残された資本市場の異質な構造の見直しが急務
である。
9月、日本板硝子が踏み切った約400億円の公募増資の際、増資
を取締役会で決議する8月24日の数日前に、事前の株価下落の
背後に社外関係者による情報漏れがあるとの疑いを強めていた
とのことである。板硝子について、東京証券取引所への報告義
務のある発行済み株式の0.25%以上の空売りを発表前に報告し
た国内外のヘッジファンドや金融機関は7社。「確信犯のヘッ
ジファンドは空売りが表に出ないよう巧妙に偽装するはず」と
いう情報もある。
「東京電力が6000億円規模の公募増資を発表するという話は本
当か?」東電の増資発表(9月29日)の約1週間前、ある米系
証券の投資銀行マンのもとに複数の海外投資家から相次いで
問い合わせがったという。引受主幹事の野村証券が他の引受証
券4社と払込銀行に増資実施を事前連絡したのは9月21日。
その翌日から東電の株価は下げ足を速めた。
7月に大型増資を実施した国際石油開発帝石は発表の3日ほど
前から空売りが目立っていた。9月末の増資発表直前の高値か
ら払込日まで株価が4割近く下げた相鉄ホールディングスは
「(空売り急増で)発表前から早くも貸し出し可能な貸株が市
場で底をついていた」という。
本当にヘッジファンドに情報は漏れているのか。「貸株も用意
したうえで事前に証券会社から情報が回ってきていた。」ある
海外の大手ヘッジファンドに勤めていた人物の証言である。
同ファンドは数年前に実施されたある有名企業の増資で事前に
数百億円規模の空売りを出し、その後に引き受けた安値の新株
で貸株を返済。「ぬれ手で粟(あわ)」で膨大な利益を手にし
たという。
日本のインサイダー取引規制は増資など企業の重要事実の決定
に関与した当事者と、その人物から直接情報を得た「第1次情
報受領者」を罰則の対象とする。増資インサイダーではとの指
摘を受け東証などは調査を始めたが、一連の売買でヘッジファ
ンドが利益を得ていても罰則対象となるかはグレーだ。市場の
不透明さを放置すれば、地盤沈下はさらに加速していくだろう。