日本振興銀行について
日本振興銀行破綻事件の特殊性について、改めて振り返って
みたい。
振興銀行は、貸出金総額の7割強の2837億円が大口融資
先で、これらへの貸付額は1社平均30億円にもなった。
それがSFCG等の商工ローン業者だったり、木村剛が主催
する中小企業振興ネットワークの企業であり、2300億円
を超える迂回融資の道具に使われていた。
金融庁が破綻処理に踏み切った理由は、三つある。第1の理
由は定期預金しか扱っておらず、普通預金、当座預金と言っ
た決済性預金を扱っていなかったことである。第2の理由は、
他の銀行との貸借もあまりなく、他の銀行へ破綻が波及しな
いことである。第3の理由は、木村剛被告の独断かつ恣意的
な経営をしていた振興銀行に国民の税金をつぎ込むことは国
民の理解を得られなかったということである。
昨年の同じ時期は、同行の預金残高は急増を続けており、四
半期決算では過去最高益を更新中。親密企業群の「中小企業
振興ネットワーク」も膨張を続けていた。第2四半期決算で
は4~9月の累計で経常利益が前年同期に比べ8倍近いの43億
円となり、過去最高を軽く更新していた。高金利定期の募集
により、預金残高も5000億円を突破、預金者は10万人の大台
に迫る勢いだった。最高益を記念して「お客さま大感謝ロー
ン」と銘打ったキャンペーンを展開し、テレビコマーシャル
も盛んに打つなど、絶好調ぶりをアピールしていたが、職員
に対する待遇は悪く、夏に続いて冬賞与の支給見送りは11月
初旬には早々と職員に通達されていた。
夏賞与の見送り時、木村氏が職員に対してその理由を説明す
る際に挙げたのは、貸出先におけるデフォルト(債務不履行)
発生の増加だったという。7月は中旬までに約2億円のデフォ
ルトが発生、木村氏は「過去最悪の月を上回るペース」とこ
れまでになく危機感を訴えたという。
最高益更新をアピールする対外発表と、賞与見送りという内
情を見比べると、経営の一貫性が全くないという印象が否め
ないが、融資面でも同様のことが言える。日本振興銀行は
「ミドルリスク・ミドルリターン」を掲げ、中小零細企業融
資の専門銀行として設立された。しかし、実際には、親密企
業への突出した大口融資が目立っていた。
その代表例は貸金会社「ネオラインキャピタル」系企業への
融資である。同社はライブドアグループ出身の藤澤信義氏が
実質トップを務めるグループで、藤澤氏は関連ファンドを通
じて老舗アパレルメーカー、レナウンの大株主ともなってお
り、昨年春には木村被告、ネオラインNo2の佐谷聡太氏らを
含む取締役選任案を株主提案したことで注目を集めた。
当然、ネオラインキャピタルも、中小企業振興ネットワーク
に参加していた。同ネットワークは「中小企業管理機構」な
ど機能別企業と「中小企業建設機構」など業種別企業を中核
に、インデックス・ホールディングスなど一般会員企業で構
成され、上場企業10数社を含めその総数は100社を優に超え
ていた。
公表ベースでのネオラインキャピタル系企業に対する最初の
大口融資は昨年8月のことだった。大証2部上場の商工ローン
会社Jトラスト(旧イッコー)に対して94億円もの融資を実行
していた。一般顧客には数百万円台を中心に最高でも2500万
円のローン商品しか提供していない振興銀行にとっては破格
の金額でああり、しかも返済期間が10年の長期に渡るという
破格の条件だった。
Jトラストは藤澤氏が昨年3月に個人筆頭株主となって以来、
同業者を買収するなど拡大策を採っている。ただ、今年2月に
実施した阪急電鉄系の旧ステーションファイナンスに対する
買収をめぐっては多額の未払金が残っており、8月末までに
資金を用立てる必要があった。日本振興銀行がそれを全面
バックアップしたわけである。さらにネオラインキャピタル
系企業への大口融資は続いた。11月27日には東証マザーズ
上場の娯楽施設運営会社ネクストジャパンホールディングス
(ネクストジャパンHD)と93億円の融資契約を締結したので
ある。
ネクストジャパンHDは一昨年9月に藤澤氏の関連ファンドの
傘下に入り、やはり積極経営に転じている。融資は同社が昨
年9月に資本提携したジャスダック上場のゲームセンター運営
会社アドアーズに絡むものだった。アドアーズの既存大株主
であるパチンコ店チェーン「ガイア」の関連ファンドがリフ
ァイナンスの必要に迫られていたのを、日本振興銀行が面倒
を見たのだ。
このほかにも、日本振興銀行は中小企業振興ネットワークの
中核企業群に対して多額の融資を注ぎ込んでいる。昨年2月
には大証ヘラクレス上場の中小企業投資機構(旧ビービーネ
ット)に対して24億円の「特殊当座貸越契約」(融資枠に相
当するもの)を供与。ラオックスの旧本店など都内で次々と
ビルを買収している中小企業管理機構など数社に対しても
100億円以上の不動産取得資金を融資しているものと見られ
ていた。
個人の零細な資金を集めて、親密な企業への傾斜融資を繰り
かえしていた日本振興銀行であるが、当局による今後の債権
の回収と実態の暴露、情実融資にからむ次なる逮捕者につい
ては、世間の注目が集まっている。