東京証券取引所と大阪証券取引所が国際的な市場間競争に勝ち
残るため、経営統合の協議を開始した。背景には日本の株式市
場が「アジアのローカル市場」に転落しつつあるという強い
危機感である。国内のベンチャー企業が、香港、シンガポール
、韓国等他のアジア市場での新規株式上場を目指す動きも加速
している。米国市場へ、上場企業を買収することで、上場会社
化するという手法を検討する企業も出始めた。日本の株式市場
は本格的生き残りの方策を検討し始めた。
●じり貧の国内市場
「日本のサイズや経済状況、人口減少や高齢化などの現状を考
えると、強い大きな市場が1つあるといいと思う」と、東証の
斉藤惇社長は10日午後、東証内で記者団に語った。NYSE
ユーロネクストとドイツ取引所との合併合意など国境を超えた
再編論議が進む中、東証の相対的な地位の低下は極め顕著であ
る。
東証は、上場企業の時価総額こそは、アジアのトップを維持し
ているとはいえ、昨年1年間の売買代金はリーマン・ショック前
の平成19年比で半分以下の354兆円まで落ち込んだ。これは
中国の上海市場を下回り、深セン市場にも肉薄されている。国内
で東証と大証が投資家へのサービス向上を競い合う“消耗戦”を
繰り広げている間に、新興国市場は、高度経済成長を背景とし
て着実に存在感を増加させている。
取引環境をどう整備するかでも市場間の競争は激化している。
例えば1千分の1秒を競う株式売買の高速化。東証は昨年1月、
当時としては世界最高水準の高速売買システムを導入したが、
シンガポール取引所が今年から新たに稼働させる新システムは
東証の20倍以上の速さという。また、日本市場は一部を除き、
上場企業の英文だけによる情報開示を認めていない。外国企業
や投資家には重い負担となっており、結果的に投資家離れにも
つながっている。
●双方の事情
東証、大証は経営戦略でも行き詰まりをみせていた。最近の
東証はデリバティブ(金融派生商品)の上場を加速させてきた
が、この分野では、日経平均株価に基づいて将来売買する権利
を取引する大証のデリバティブの方が知名度が高く、海外市場
でも売買されている。東証の出遅れは明らかだった。
大証は昨年10月、ジャスダックとヘラクレスを統合したアジ
ア最大の新興市場「新ジャスダック市場」の取引を始め、米ナ
スダックとも連携を強化してきた。ただ、ジャスダックに新規
株式上場(IPO)した企業の初値は公募価格を下回るケース
が多い。22年のIPO件数はわずか22件で、金融危機前の
19年の121件と比べ激減した。ベンチャー企業の中には
ジャスダックや東証のマザーズを素通りし、前述のように他の
アジア市場や、米国市場での上場を志向する動きも出ている。
これまでライバルだった東証と大証がすんなり融合できるか、
微妙である。売買代金でみると東証の20分の1以下の大証に
は東証にのみ込まれるという懸念がくすぶっており、協議が
難航する可能性は大である。両社の統合は、地盤沈下から抜け
出す窮余の一策だが、証券業界には「弱者連合ではどうしよう
もない」「もっと早く統合すべきだった」との声も出ている。
統合実現までの道のりも平坦ではない。企業、投資家に資する
市場を目指し、徹底した統合議論を早急に詰めてほしいところ
である。障害は、変化に鈍重で、柔軟性にかける東証の官僚体
質であると指摘したい。