ソーシャルゲームというのはここ数年で急成長してきた特殊な業界である。前年比の売上高約10倍、営業利益約40倍異例の増収増益を発表したガンホーの株価はストップ安になる一方で、この間赤字決算を連発しているKlabの株価が高騰している。同社はゲームになじみの深いネット投資家の間で今、非常に人気の銘柄である。しかし、市場の高評価とは裏腹に、同社は様々な点において危険な要素を孕んでいる。

▼壮大なるプラン
 Klabは「恋してキャバ嬢」などの携帯電話、スマートフォン向けゲームアプリを販売するほか、システムインテグレーション事業やクラウド&ライセンス事業を展開している。昨年度(二四年八月期)決算は、前年に比べ大幅な増収・増益の好決算だった。Klabが打ち出した今年度(決算期変更のため、二五年八月~二五年十二月まで)の事業計画は実に華々しかった。売上高は前期152億から2倍超の330億。営業利益も前期28億から50億にするという。また、新作ゲームを第二四半期までに40本、第四四半期までに70本リリースする計画であった。壮大なプランである。
 ところがKlabは早くも躓いた。計画では第4四半期から黒字化を図る予定で、第一、第二四半期は赤字予想だったが、Klabは第二四半期発表の日に業績予想の修正を発表。新作ゲームを40本リリースすることができず、実際に完成したものは約半数の23本だけで、残る17本のリリースを中止した。その結果、予想の通期売上330億を220億に修正、かつ営業利益を50億からマイナス11億の赤字に修正した。早々に黒字化をあきらめたわけである。
 増収増益予想から一転、大幅赤字に転落である。業界全体の沈没ならまだしも、ゲームの本数の計画倒れは一重にKlab側の怠慢に責任がある。7月に発表された第三四半期も無残に赤字であった。
 にも関わらず、株価が上がっているのである。予想修正を発表した4月からKlab株は上昇し始め、400円ほどで推移していた株価は7月には2000円代に達した。出来高も以前の100倍近い日も出ている。Klab株は異常だ。

▼無残な決算と提灯記事の連発で株価高騰
 おそらく、投資家を落胆させる無残な決算と、提灯記事が交互に繰り出され、乱高下する株価にテクニカル分析による投資を行うにわかトレーダーが群がっているのであろう。業績予想の修正が発表された直後の17日に日経や一部ネットメディアなどが、Klabが15日に配信した新作ゲーム「ラブライブ!」がアップルストアのランキング上位に浮上したという提灯記事を発表。ストップ安だった4月15日の終値390円だったものが、19日には720円まで上がった。しかしその後は反落。ラブライブのアップルストアの順位が後退したからだという。なおこのとき、昨年12月にKlabの新株予約権割当を受けているメリルリンチは、予想修正発表後の安値で大量行使し、売り抜けている。
 次に高騰したのは6月である。Klabが5月単月黒字化を発表した。Klabは月次の損益を開示しているわけではないが、計画では9月から月次の黒字化を図る予定だったが、5月に1000万ほど利益が出たので、計画の前倒しという意味で発表したという。黒字化の理由として、「ラブライブ!」が好調であったこと、コスト削減の効果などを挙げている。
 それから株価は上がり続ける。日経新聞などで提灯記事が連発されたからである。『Klabがストップ高買い気配 MSと提携、スマホ向けゲーム提供』(日経6月25日付)、『Klabが年初来高値 eコマース事業参入を引き続き好感』(日経7月2日付)、『Klabが反落 信用取引規制きっかけに利益確定売り』(日経7月4日付)、『Klabが一時18%安 9月~5月期7億赤字で失望売り』(日経7月16日付)、『Klabが一時16%高 博報堂との提携を発表』(日経7月18日付)。このほか多数の提灯記事が出て、7月の株価は一時2000円に達した。
 株価が上がり続けるけれども、7月に発表された第三四半期は赤字である。この時には減損損失も計上した。その後に博報堂との業務提携及び新株予約権割当、投資ファンドOakキャピタルへの新株予約権割当による増資を発表し、一時下落した株価を再度高騰させた。

▼業績と財務状況の悪化
 いかに株価が高騰しようと、有名企業と提携しようと、人件費等費用の急増と売上の減少という問題を根本的に解決するものとは思えない。実際、Klabの財務状況は悪化している。まず売上の減少だ。Klabは決算期が変わったといって決算短信に前期比を載せていないが、実質的に同じ期間である。したがって、第一四半期は前期比マイナス1%、第二四半期はマイナス7%、第三四半期もマイナス7%となる。一方で売上原価は第一四半期25%増、第二四半期25%増、第三四半期23%増である。販管費も第一四半期120%増、第二四半期117%増、第三四半期71%増である。売上が減り続ける一方で、売上原価や販管費が激増するのは、危険の兆候である。
 Klabは5月から黒字化したということで、第四四半期の6月から8月末の売上は45億9700万円、営業利益は2億5800万円と予想している。確かに黒字化は図れるようだが、利益率は昨年度に比べて大幅に落ちている。
 そもそも、利益率が比較的良かったSI事業、クラウド&ライセンス事業をどんどん縮小させている。二二年八月期の両事業の売上は約21億3千万、二三年八月期は約21億3千万、二四年八月期は14億3千万となっている。今期に至っては両セグメントを「その他事業」と一括りにしている。ゲーム事業のほうが成長が早いと判断したのだろうが、上場当初重要な売上の柱だった事業をおろそかにするのは如何だろうか。
 今回、減損の対象となったゲーム事業関連の資産(無形固定資産のうち「その他」)は増え続けている。第一四半期は5億4千万だったものが、第二四半期は9億6千万、第三四半期は10億5千万(2億5千万の減損)。更なる減損処理が必要となってくる可能性も否定できない。資金繰りもよくはない。二四年八月期に3億6千万ほどだった有利子負債が、今期第三四半期の短期借入金だけで39億もある(前期は短期借入金はなかった)。

▼増資の連発による株式の希薄化
 Klabは今期、3回も増資を行っている。Klabは昨年11月に、行使価格修正条項付き新株予約権3650個(3,650,000株、下限価格は448円)をメリルリンチに割当てることによって、約24億を調達。これを新規ゲームの企画開発に係る人件費や外注費に10億円、海外事業に2憶7千万円、マーケティングやPR費用に12億円充てるという。
 7月には博報堂に対して第三者割当増資(241,600株、発行価格1,134円)を行い、2億7千万円を調達すると発表。これと同時に、投資ファンドのOakキャピタルに対しても第三者割当増資(79,500株、発行価格1,259円)を行い、加えて新株予約権4,369個(426,900株、行使価格1259円)を割当てるという。博報堂と合計で9億3千万を調達する。メリルリンチと同様、これらの資金のうち、約2億7千万円はマーケティング・PRに充てられ、約6億6千万円は新規ゲームの人件費に充てられるという。
 一般投資家は矢継ぎ早の新株発行によって、株式が著しく希薄化していることに注意するべきだ。仮にOakが予約権をすべて行使した場合、今期中に発行された新株は4,318,500株となる。その場合、前期(24年8月時点)に対しておよそ16%希薄化すると思われる。
 今回の増資については疑問もある。そもそも当初計画の半分しか新規ゲームが開発されていないのであれば、予算内で十分新規ゲームに係る費用は賄えるはずだ。それに、5月から黒字化した理由について、コスト削減を挙げている。ならば余計、既存株主の株を希薄化させてまで、大規模な資金調達を図る必要性もないではないか。
 おそらく、資金繰りが問題であったと思われる。今期の売上は前期よりマイナスか、ほぼ横ばいなのに対して、二倍近い人員増を行っている。有利子負債が激増していることを考えると、これ以上の負債増加を回避したい狙いがあったと思われる。

▼真田哲弥という男
 発表された資料を追っていくだけで、これだけの懸念がKlabにあることが理解できる。「楽天家」を自認するKlab社長・真田哲弥はどれだけ事の重大性を認識しているのだろうか。Klabのブログでは、若い新入社員を前にコスプレをしてはしゃぐ真田の様子が掲載されている。Klabは今年1月に3000万を投じてネットメディアを設立した。Klabホームページに掲載されているバナーには、田原総一郎など著名人写真の中になぜか真田が混じっているのである。己の虚栄心を満たす前に、会社の現状をなんとかするべきではないのか。
 真田哲弥という男は、学生時代に会社を経営し、ダイヤルQ2で大儲けした起業家の雄として語られることが多いが、真田には株主にもひた隠している経歴がある。平成元年のダイヤルキューネットワーク設立から平成九年のアクセス入社までは空白になっているが、ダイヤルキューネットワークは一年半ほどで倒産。真田はその後、ネクストという会社を設立・経営していた。
 真田がネクストの存在を隠すのは、ネクストの幹部が詐欺事件に関与して逮捕されているからである。このとき逮捕されたのは4人のうち、首謀者はネクスト幹部の幼馴染で、投資詐欺「投資ジャーナル」グループのメンバーだったという。そしてネクストは、投資ジャーナルメンバーが運営していた「日本ファイナンス育成機構」が推奨する企業の一つであった。要するに彼らの詐欺行為に利用されていたわけである。
 また、真田は過去にサイバードというジャスダック上場企業の副社長をしていたが、同社は赤字を垂れ流し続け、しまいには上場廃止した。最後の決算では78億の巨額赤字だったという。上場廃止の際のMBO手法が、他の株主の利益を損ねるとして、株主から訴訟を提起されている。
 Klabは、雑誌『FACTA』が追及しているSBIに関する一連の疑惑の中で登場する銘柄でもある。本業以外でも、いろいろと怪しげな点が多いわけである。

(文中敬称略、一部訂正)