パソコン関連事業をおこなうマザーズの株式会社MCJは、直近の第16期(平成26年3月期)決算は、6年ぶりに売上1000億円超に持ち直し、経常利益は上場来最高値に達した。第15期にMCJ社長の高島勇二は業績悪化の責任を取り、役員報酬をほぼ全額返上したが、Windows8の買い替え需要など市場環境の追い風を受け、業績が好転したようだ。

■村上ファンドの登場
 第16期で特筆すべきもう一つの点は、株式会社レノによる大規模買付行為だ。レノは「村上ファンド」として知られる村上世彰の投資会社元幹部・三浦恵美が代表。現在シンガポールにいる村上の息がかかったファンドであることは周知の事実だ。
 レノは24年7月にはじめて大量保有報告書を提出してから、昨年3月までに保有割合は19.5%まで買い集めた。そして10月にレノはMCJに意見表明書を提出し、買付行為を行う意志を表明した。その後、12月までに買収防衛に係るやり取りが何度も繰り返された。
 村上ファンドの投資行動というのは主に二つあると考えられている。一つは怠慢な企業運営を行っている経営陣に、株主としての権利を行使して企業価値を高め、中長期的にキャピタルゲインを得る事。もう一つは、「村上ファンドがうごいた!」という事実のインパクト自体が買いを誘うことを利用して、短期的に売りぬけることである。
〈むしろ大量取得の事実が大量保有報告書によって公開される仕組みを利用し、村上ファンドへの追随買いを誘って株価の水準を高めた後、上手に売り抜ける工夫を凝らした投資スタイル〉(ニッセイ基礎研究所 所報vol.45「村上ファンドの投資行動と役割」)
 MCJへの投資は後者を目的としたものと思われる。買収防衛を巡るやり取りの最中で株価は高騰していた。ここ数年150円前後だった株価が昨年10月以降は250円前後で推移している。そして過去5年間で最高値395円をつけた12月16日、レノは保有していた6.3%を一気に放出している。

■六本木人脈
 ところで、村上はかつてライブドアの堀江貴文などを始め、マネーゲームを得意とするベンチャー起業家とともに司直の手にかかったが、高島もそうした“ヒルズ族”と呼ばれる勢力と非常に近い関係にある。そもそも本社所在地が埼玉県で、実質的な本社機能が浅草橋にあるのに、高島が六本木のミッドタウンとヒルズに部屋を持つのは、そうした連中との付き合いが好きだからだ。
 MCJは上場当初の高島が社長だった時代、16年6月、17年11月の2度、ライブドアと業務提携している。ライブドア関係者が東京地検に呼ばれたのが17年12月、事件化直前までライブドアとお付き合いをしていたことになる。
 ライブドア関係では19年に株価操縦で暴力団組長などが摘発されたアイシーエフとも、MCJは16年7月に業務提携をしていた。ちなみに、アイシーエフを買収し裏口上場を狙った翼システムのM&Aを仲介したのは村上である。
 死人やコワモテが出てくる事件銘柄に会社として関与していたわけだ。
 高島が可愛がっていたヒルズ族仲間として、設立からわずか5年足らずでセントレックスに上場、そしてわずか4年で倒産となった日本株式市場の汚点、エスグラント・コーポレーションの杉本宏之がいる。杉本は高島を「先輩」として慕っていた。エスグラントの上場前にMCJはVC事業として同社に投資していたが、高島の資産管理会社も新株の割当を受け、懐を温めている。
 同じくMCJが投資して名古屋証券取引所に上場したネット関連企業ギガプライズ(名2 3830)では、なぜか不動産会社のエスグラントが未公開株を譲り受けている。この際も高島にもギガプライズ社長の下津弘享から「所有者の事情」という理由で未公開株が渡っている。
 個人的な付き合いならまだしも、高島の六本木人脈によって会社の意思決定が左右されている可能性が高い。公私混同はないのか。

■アドテックとの不可解な取引
 MCJは売上こそピーク時の水準まで回復したものの、金融機関の姿勢は厳しくなっていると思われる。売上が1050億円あった第9期の取引銀行は13行で、当座貸越極度額の総額は210億円だったにも関わらず、年々減り続け第16期は取引銀行7行、極度額総額は137億円に減少している。
 おそらく決算内容に不自然な点が多いのが原因の一つと考えられる。パソコン関連事業にも関わらず、第16期は約24億円をどこかに貸し付け、期中に回収している。第15期は約10億円だった。このような巨額貸付はこれまで見られなかった現象だ。
 前回のレポートで問題にしたメッツとの不動産取引についても、取得した物件は固定資産や販売用不動産として計上するのではなく、パソコンの部品を含めた棚卸資産としていっしょくたにしている。問題の物件はパソコン関連のSKIグループ関連企業に今年2月売却された。MCJは「今回の取引で赤字は出していない」と説明している。そうではれば初期投資に使った十数億円以上の売り上げが出ているはずだ。しかし、セグメント販売実績はパソコン関連事業1024億円、メディア事業15億円しか出ていない。不動産事業の実態は極めて不透明だ。
 さらに気がかりなのがアドテック(JQ 6840)との取引だ。
 高島は資産管理会社と併せて同社株約32%を保有している。MCJとアドテックは18年から資本・業務提携を結び、MCJが約14%を保有していたが、24年に提携を解消。MCJはアドテック株を77円で大証J-NET市場を通じてアドテックに売却した。一方高島は、当時アドテック株を24%持っていた親会社のパナ・アールアンドディから、全株を倍以上の約164円で買い取った。
 その後アドテック役員に就任したのは、MCJの持分法適用非連結子会社HPCシステムズの小野鉄平、前述の資産管理会社の内藤、ギガプライズの下津、かつてMCJがアイシーエフと提携した際に共に名を連ねたスリープログループ(東マ 2375)社長の村田峰人など、MCJ色の強い人物ばかりだ。そして監査法人にはMCJと同じ優成がついた。
 そして、アドテックは直近の第32期(26年3月期)で過去五年間最高の32億円の売上を計上した。前期売上が約16億で赤字だから、業績が著しく好転したように見える。
 だがその売上3252百万円のうち、1976百万円はMCJへの売上である。前年のMCJに対する売上は69百万円しかなかった。業務提携していた頃よりも両社の関係が深くなっている。MCJとの取引を除したアドテックの売上は1276百万円で大幅な減収となる。
 アドテックの決算を四半期でみると、MCJとの取引は第三四半期、第四四半期に集中している。売上債権回転期間は前期通期が1.8月で、1.8月(1Q)、1.95月(2Q)、1.78月(3Q)、1.22月(4Q)となる。棚卸資産回転期間は前期通期が1.25月で、1.26月(1Q)、0.77月(2Q)、0.66月(3Q)、0.75月(4Q)となる。期末に向けて商品の流れが劇的に早くなっている。MCJとの取引だけみると、前期通期の売上債権回転期間が5.5月であるのに対して、今期通期は1.54月とかなり早い。
 傍目には大幅な売上増をしたように見えるが、アドテックはそれに見合う設備投資をしたわけではない。従業員数も増えるどころか年々減り続けている。このアドテックとMCJとの取引は、単に商品が右から左へ流れたにすぎないのではないか。
 MCJの立場からすれば、わざわざアドテックを介在させる必要があるのか、という疑問が湧いてくる。ヒルズ族の生き残りを見据えていきたい。
(文中敬称略)