東証マザーズに上場して以来、上場1年目を除いて赤字決算しか出していないイーキャシュ。前期に債務超過に陥ったが、今年3月の増資で債務超過を解消。相変わらず赤字だが、すんでのところで上場廃止を免れた。「キャッシュ」を社名に冠しているが、主力だったRFID事業や決済代行は開店休業状態であり、売上の柱は昨年買収した旅行会社である。こちらも赤字を垂れ流している。典型的なハコ企業だ。
 既に『敬天新聞』や『アクセスジャーナル』が報じているが、イーキャッシュには投資詐欺で集められた犯罪収益が入っている可能性が高い。虚偽の説明で120億を集め、うち70億が雲散霧消した、とされるWith Asset Management株式会社(代表小西正也)の金の大部分が、昨年3月にイーキャッシュの大株主となった株式会社Infinity Holdings(代表今村哲也)に貸付金名目で流れていた。今村らはこの金を、フジテレビの興行「ツタンカーメン展」に使ったとして週刊誌などに取り上げられている。
■「4億円でイーキャッシュを買わないか」
 この今村が師事していたのが都内でIT企業などを経営している奥田昇という男で、奥田もイーキャッシュに合同会社エージェンシー(代表武内秀之)を通じて金を貸し付けている。イーキャッシュの役員でもある武内は、かつて奥田と共にソリッドアコースティックの役員に入っていた。
 今村は昨年9月の時点で持ち株をすべて売却している。11月頃から貸付を開始した奥田だが、イーキャッシュは一向に債務超過から抜けられず、上場廃止が迫っていた。奥田としては、DESを行って債務超過を解消しようとしていたが、東証がそれを認めなかったという。廃止となれば貸付金の回収は不可能となるので、奥田は人を介して、今年2月末頃までイーキャッシュの買い手を探していた。
 我々の下にもこの話は来ていた。今年2月中頃に、ツタンカーメン展で名前の挙がっている株式会社ベンチャーコントロールの田中美孝から、人を介して「奥田が持っている債権と、およそ30%のイーキャッシュ株を合わせて4億円で買い手を探している」というものである。債権は1億8000万円で、イーキャッシュがエージェンシーに担保提供した自社株と、それと他の大株主の持分を含めた金額と思われる。
 そこで日興証券OBを中心としたグループが手を挙げたが、突如Oakキャピタル株式会社(東2 3113)が増資を引き受ける事が分かり、破談となった。Oakといえば、怪しげな不振企業の救世主としてしばし登場する。奥田と共にソリッドアコースティックに乗り込んだ真田哲弥が経営するKlab株式会社(東1 3656)への増資もそうだ。
■主力子会社アトラスを巡る疑惑
 資金の出し手がどのような筋の人間であろうと、事業が好転しない限りまたファイナンスを繰り返すだけである。翻って、イーキャッシュの事業内容はどうか。
 主力となっているアトラスは、第四四半期にソフトウェアを中心とした減損処理を行い、一転債務超過会社になった。イーキャッシュの傘下に入る前は黒字を出していたのに、連結に入って赤字を出しているわけで、デューデリジェンスが適正に行われたのか疑念がある。
 アトラスを巡って、清和監査法人から内部統制報告書の意見不表明が出ている。財務諸表に対するものとは違い、上場廃止基準には抵触しないが、異常であることは間違いない。
「一部の子会社を当連結会計年度2月に取得しており、取得日から連結会計年度末日までの期間が短く、経理及び財務の知識、経験を共有した者を当該子会社に係る内部統制手続きに従事させることが困難であったことにより、重要な評価手続きが実施できなかった」(第23期有価証券報告書『独立監査人の監査報告書及び内部統制報告書』)
 関係者によると、アトラス買収はイーキャッシュ社長の小山静雄が提案したもので、元々今村御用達の旅行会社だったという。取得価額は約1400万。昨年2月8日時点でアトラスの総資産は5000万とのことだが、今回減損処理の対象となったソフトウェア資産の額は約1400万であり、買収時のアトラスの資産の約3割は資産価値のない「ソフトウェア」だったことになる。IT企業であるまいし、資産の過大計上の疑いはなかったのか。
 デューデリジェンスを行ったのは税理士法人トライスターであるが、同法人は奥田と昵懇と報じられている。
 イーキャッシュ社長の小山はアトラス創業者、取締役の中村晋一はアトラスの社長で、買収資金は中村の手に渡っている。イーキャッシュの役員がアトラスの社長をやっているのだから、内部統制報告書の「経理及び財務の知識、経験を共有した者を当該子会社に係る内部統制手続きに従事させることが困難」だったというのもおかしな話だ。
 仮に、買収した時点でアトラスのソフトウェアが資産性のないものと分かっていれば、当時から債務超過だったことになり、会社資金を不正に流出させたわけで、実質的な背任行為となる。知らなかった場合でも、今回アトラスが債務超過となった以上、経営責任の追及は免れない。
■はじまりはチーズ屋
 イーキャッシュは昔から、怪しげな面々と関わりが深く、腐臭の漂う企業であった。今村の前の大株主は、石原啓資という男である。女優の菊池麻衣子の元旦那で、株式会社ジャストシステム(東1 4686)のインサイダー取引で逮捕された。
 石原と共にイーキャッシュに経営参加をしていた、IIJ出身の泉大五郎は自身の所有する株式会社ディーワークスをイーキャッシュに株式交換で取得させ、イーキャッシュはその後Soltivaコンサルティング合同会社(泉大五郎が経営)にディーワークスを、取得時を大きく下回る価額で売却している。
 そもそも今村や奥田がイーキャッシュに介入するきっかけを作ったのが、チーズの輸入会社であるムラカワ株式会社の社長、内田義治である。石原、奥田の共通の知り合いで、奥田を経由して今村が逮捕された石原の株を買った。これが始まりである。
 なれの果てはどうなるか、見ものだ。
(文中敬称略、一部訂正)