最近の上場企業経営者および関係者によるインサイダー取引の事
例について述べてみたい。
●増資めぐるインサイダー取引で実質的経営者ら3人を逮捕
 2010年2月25日
東証2部上場の精密機器メーカー「テークスグループ」(神奈川
県相模原市)の増資をめぐり、インサイダー取引をしたとして、
大阪地検刑事部は25日、証券取引法(現・金融商品取引法)
違反(インサイダー取引)の疑いで、東京の企業グループ「ワシ
ントン・グループ」の自称社主で、テークス社の実質経営者、
河野博晶被告(67)=同法違反罪などで起訴=ら3人を逮捕し
た。地検によると、3人とも容疑を認めているという。
逮捕容疑は、テークス社が平成20年9月19日付で第三者割当
による約20億円の増資を行うことを決定したうえで、公表前に
テークス株を買い付けた。さらに、リーマン・ショックの影響
で増資断念を決めながら、公表前にテークス株を売り抜けたとし
ている。
 河野容疑者らは一連の取引で数千万円の利益を得たという。
地検と証券取引等監視委員会は今後、資金の流れを解明するとと
もに、ほかに関与した関係者数人からも事情聴取を進める方針。
●故・山野愛子さん三男がインサイダー 証取委、課徴金200
 万円勧告 2010年2月19日
和洋装品・宝飾品販売ヤマノホールディングス(ジャスダック上
場、東京)の株でインサイダー取引をしたとして、証券取引等監
視委員会は19日、金融商品取引法に基づき同社の山野彰英会長
と関連2社に対し、課徴金計約200万円の納付を命じるよう金
融庁に勧告した。山野会長は、日本の総合美容を確立した故山野
愛子さんの三男。
ヤマノホールディングスは「株主や投資家ら関係者に迷惑を掛け
おわびする。会長は辞任の意向で、適切な時期に経営責任を明確
にする」としている。
証取委などによると、山野会長は自社グループの再建計画に伴い、
孫会社を売却するとの情報を入手。平成20年10月29日の公
表前に、関連会社名義の口座を使って2万8千株を約137万円
で、別の関連会社名義で2万1300株を約134万円で、自分
名義の口座を通じて3万2900株を約162万円でそれぞれ
購入したとされる。
●「イオンにインサイダー取引疑惑がある」とドラッグストア業
界でささやかれている。舞台は2年前の2008年、イオングループの
ドラッグストアチェーン大手、グローウェルホールディングス
(HD)傘下のウエルシア関東が行った寺島薬局に対するTOB
(株式公開買付)だ。
寺島薬局は茨城県を地盤にする中堅薬局だが、ドラッグストアだ
けでなく調剤、在宅介護にもいち早く進出し、経営の三本柱を確
立。しかも、地域密着型経営に徹したことで厚生労働省や経済産
業省から「てらしまモデル」と称賛されている。そんな優良ぶり
に惹かれたイオンが資本参加と業務提携を要望。寺島薬局は銀行
が保有していた同社株をイオンに譲渡してもらう形でイオンに
発行済み株式の16%ほどを保有してもらっていた。形の上では
イオンとは密接な関係だった。
そんな優良ドラッグストアがTOBの対象になったのは、相談役
に退いていたオーナーが「農業に専念」するため49%の保有株式
を売却したいと言い出したことに始まる。オーナーの提案で経営
陣はひそかにMBO(経営陣による自社買収)を計画した。
一方、オーナーはグローウェルHD会長でウエルシア関東社長の鈴
木孝之氏に相談。その結果、ウエルシア関東が突然、TOBを
発表した。この間、700円台だった寺島薬局の株価は1100円に急騰
していたが、ウエルシア関東のTOB価格はそれをさらに上回る
1976円。むろん、MBOを計画していた経営陣は手も足も出ず、
ウエルシア関東によるTOBは成立した。
ところが、このTOBではインサイダー取引疑惑が根強くささや
かれている。ある関係者によれば「TOBはもちろん、MBOも
秘密裡に進められるものですが、寺島薬局のTOBではオーナー
の親戚や親しい店長に加えて、TOBを実施するウエルシア関東
の副社長や子会社、さらに親会社であるグローウェルHDの高田隆
右社長たちが寺島薬局株を取得したり買い増ししたりしている。
●サンエー社長インサイダー疑惑――経営者の株取引は慎重に
2008年04月04日
 
東証一部に上場している大手アパレル会社の社長が、インサイダー
疑惑で証券取引等監視委員会から調査を受けていることが一部報道
で明らかになった。その人物は、Pinky&Dianne や P’EARY GATES
といったブランドで有名なサンエー・インターナショナル社長の
三宅正彦氏。三宅氏は2006年4月、自身が保有する自社株数千株を売
却し、数百万円の利益を得たとされ、当時同社には新株発行による
公募増資の計画があり、それが発表される前に、株価下落を見越し
て売り抜けたのではないか――というインサイダー取引の疑惑がか
けられている。
●証券取引等監視委員会は、イマージュホールディングスの社長と、
同社長が実質的に経営する投資会社を証券取引法違反(インサイダ
ー取引)の疑いで高松地方検察庁に告発したと発表した。
東証1部の上場企業社長がインサイダー取引で告発されるのは異例。
イマージュHDの南保正義社長は、東証1部に上場していたキャビン
(東京・千代田)と大和証券エスエムビーシープリンシパル・インベ
ストメンツが06年4月19日に業務提携を解消すると発表する以前
に、大和エスエムビーシープリンシパル・インベストメンツの役員か
ら情報を得て、キャビン株50万株を06年4月6日―11日の間に
計約2億4800万円で、自らが実質的に経営する投資会社を通じて
買い付けた。
06年のキャビンと大和エスエムビーシープリンシパル・インベスト
メンツの提携解消をめぐっては、監視委は26日にもキャビン(東京
千代田)の取引先社員にインサイダー取引があったとして課徴金の納
付を命令するよう金融庁に勧告していた。
2007年の7月の村上ファンドに対しての判決で、インサイダー取引の
適用範囲が、合併やTOBなどの重要事実の決定について「実現可能
性が高いことが必要ではない、即ち「可能性が全くない場合」にはイ
ンサイダー対象外となるが、「可能性が少しでもある場合」にはイン
サイダー対象となってしまう判断がされた。「ライブドアが取締役会
でニッポン放送株の大量取得を決議した(もしくは決議する可能性が
高い)」という状況が必ずしも必要ではなく、「堀江社長や幹部が宴
席で大量取得をほのめかした」程度でもいい、ということにされたの
である。昔は大丈夫だったから、という感覚で、関係会社株を売買す
ると摘発の対象になるだろうし、今後増えることはあっても、減る
ことは無いものと予想される。