USEN宇野社長が今月で退任。また「時代の寵児」の退場である。
IT(情報通信技術)長者がまた1人経済界の表舞台から去る。有線放送最大手、USENの宇野康秀社長(47)が11月26日付で退任する。
宇野氏は新設される「グループ会長」という役職に就くが、取締役を退き経営の第一線から外れることになる。
宇野氏は、インターネット時代の花形経営者だった。有線放送から光ファイバーによるブロードバンドサービス、無料のインターネット動画配信事業、映画の制作・配給まで手を広げた。IT全盛期の旗手の一人であった。
ホリエモンこと堀江貴文・元ライブドア社長(38)たちより年が一世代上であることから、「ヒルズ族の兄貴分」と呼ばれた。2006年3月。事件で窮地に陥ったライブドアを救済するため、フジテレビが保有していたライ
ブドア株(12・7%)を宇野氏個人の名義で95億円で取得した。が、これを境に坂道を一気に転げ落ちることになる。USENの株価も、暴落を続け、ライブドア株を手に入れる2カ月前の06年1月16日の上場来最高値3820円から、本年10月28日には45円まで下落。最高値から90分の1ほどの水準まで下落した。
宇野氏が手がけた新規事業が利益を生まず、ことごとく赤字を垂れ流し続けたからである。赤字経営で資金難に陥ったUSENは07年5月、米投資銀行ゴールドマン・サックス(GS)系の投資ファンドを引受先に250億円の第三者割当増資を実施した。GSの保有比率は18・07%となり、宇野氏に次ぐ第2位の株主になった。GSが幹事となり、07年11月、USENは30金融機関との間で極度額1200億円のシンジケートローン(協調融資)を締結し、借入金を一本化しようとした。
この結果によりGSはシンジケートローン150億円と、第三者割当増資分250億円を含めて、400億円をUSENへ資金提供した。08年9月のリーマンショック後、GSは資金回収をはかる方針へ転換した。金融関係者によると、「GSは、保有しているUSEN株を投資ファンドに売却しようとしたが、投資ファンドはUSENの借入金が多いことに難色を示した。ファンド側が提示した最低条件は、USENの有利子負債を半分の600億円台まで
圧縮すること、そして宇野氏の退陣だった」。ここから有利子負債を半減させるためグループ会社の売却が始まる。09年4月、動画配信サービスのGyaOの株式をヤフーに売却。映画制作・配給会社ギャガ・コミュニケーション、「カラオケUGA」で知られるBMBなども売却した。それでも債務超過危機は回避できず、今年6月には、完全子会社の人材派遣会社、インテリジェンスを約325億円で米投資ファンドのKKRに売却した。
インテリジェンスは宇野氏が創業した、原点とも言える企業で業績は黒字、USENの連結売上高の30%を占める中核会社だったが、その虎の子まで売らざるを得なかった。インテリジェンスの売却益(約157億円)により、10年8月期の連結最終損益は10億円の黒字(前の期は595億円の赤字)となり、債務超過を免れたが、グループの解体は、一層すすんだ。
時代の寵児ともてはやされ、凋落した若手経営者は宇野氏だけにとどまらない。IT長者が、自社株式を担保に、証券金融会社から融資を受け、他社株式に投資をしていたが、株価下落で担保割れし、投げ売りが続き、逆スパイラルで、株価が下落するという状況が続いた。リーマン・ショックが彼らの息の根を止め、ベンチャーという言葉は、今や死語に成りつつある。新興市場バブルで、儲けたのは、リスクをとっていない証券会社と監査法人だけであるという苦い事実だけが残った。そして今後、新興市場の整理は、一層進んで行くだろう。