贈収賄は、公共事業を巡り、国会議員、知事、公務員等と、受
注を受ける民間企業との間で行われることが多い。しかし、公
務員以外の民間人であれば、収賄罪など関係ないと思い込んで
いないだろうか。一定の条件付きではあるが、民間人が賄賂を
受け取ったことにより、「汚職」として刑事罰に処される可能
性はある。株式会社における取締役などの役員である。
会社法967条は、「次に掲げる者(発起人、取締役、会計参与、
監査役、執行役など)が、その職務に関し、不正の請託を受け
て、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をした
ときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する」とあ
る。賄賂を実際に受け取らなくても、要求や約束をしただけで
罪になるため、その意味では同条が処罰対象にしている範囲は
十分に広い。一方で「不正の請託を受けて」という要件も付さ
れており、ただ賄賂を受け取る単純収賄は、会社法において
処罰の対象とされていない。
請託とは「頼み事」のことで、不正な頼み事、たとえば納入価
格を市価に比べて著しく高価にすることや、違法な行為などで
ある。これと引き換えに、金品などの利益を受け取ったり(要
求や約束を含む)、過剰な接待を受けたりした場合を、会社法
は収賄罪として定めている。
ただ、「取締役が不当に賄賂を得たという事例は、たいてい会社
法960条の特別背任罪に該当する。特別背任のほうが構成要件が
広いため。よって結局は、すべて特別背任で立件されているのが
実態」である。結果、この会社法967条は「適用例がほとんどな
く、死んだ法律」になっているのが実態である。
特別背任とは、株式会社の取締役などが、いわば会社を裏切るこ
とで、会社の財産を減らしたり、本来は得られるべき会社の利益
を得られなくし、会社に損害を与えたりする犯罪行為である。必
ずしも取締役ら自身が利益を取得しなくても成立する点で、業務
上横領罪(刑法253条)とは異なる。取締役たる者、自らをつね
に律することが重要である。まして、上場企業の取締役は、尚更
であると指摘したい。