●競業避止義務
競業避止義務とは、取締役等が、自己または第三者のために、
その地位を私的に利用して、営業者(会社)の営業と競争的
な性質の取引をしてはならない義務のことを言う。会社法365
条により、取締役会の承認なしに自己または第三者のために
会社の営業の部類に属する取引を行うことを禁止されてい
るのである。
取締役が自らまたは他人のために、自分の会社と同業の業務
を行った場合には、競業関係となり、会社に不利益を与える
かもしれないことから忠実義務に違反することになる。
取締役会で競業取引の承認を受けた場合には解かれるが、相手
方・品目・単価・支払い条件などを明らかにしなければならな
いし、取引開始後は報告義務が生じる。
●自己取引・利益相反取引禁止義務
①自己取引
会社と取締役の間の取引で会社が損をし、取締役が得をする
取引については自己取引の禁止として取締役会の承認と報告を
必要としている。例えば、不動産の売買や金銭の貸借などを
直接行う場合などである。
②利益相反取引
自己取引のように直接ではなく間接的に利害が相反する取引を
利益相反取引と呼び、これらの取引にも取締役会の承認と報告
を必要としています。 
オーナー系上場企業においては、「竃の灰まで俺のもの」の
意識が抜けず、オーナー社長と会社の取引は数多くある場合が
多い。会社や営業所の敷地が役員所有の場合の地代の決定場合、
役員の不動産を会社が買い取る場合、グル-プ会社の株式を役
員と法人で譲渡する場合、役員に会社がお金を貸しつける場合、
オーナー社長が所有する別企業(法人)の財貨サービスの取引
などである。
●関係条文
会社法第356条(競業及び利益相反取引の制限)
1.取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取
 引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなら
 ない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に
 属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようと
 するとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の
 者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する
 取引をしようとするとき。
会社法第423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第423条
1.取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下
 この節において「役員等」という。)は、その任務を怠った
 ときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償
 する責任を負う。
2.取締役又は執行役が第356条第1項(第419条第2項において
 準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に
 違反して第356条第1項第一号の取引をしたときは、当該取引
 によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、
 前項の損害の額と推定する。
3.第356条第1項第二号又は第三号の取引によって株式会社に
 損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その
 任務を怠ったものと推定する。
●取締役の競業避止義務についての判決
(東京地裁昭和56年3月26日判決)
【事実の概要】
X会社(原告)は、千葉県下を含む関東一円において、製パン業
を営んでいた。X会社の代表取締役Y(被告は)、千葉県下で
製パン業を営むA会社の株式のほとんどを自ら買い取った。
Yは、A会社において、代表取締役はもとより取締役であった
ことすらなかったが、実質的にその経営を支配していた。
また、Yは、X会社が関西地区に新たに進出するために市場
調査を行っていたにもかかわらず、自ら資金を調達し、別会社
であるB会社を設立し、その代表取締役として、関西地区に
おいて製パン業を営んだ。Yの右の一連の行為については、
X会社の株主総会の認許はなかった。X会社は、その取締役
であるYに対し、択一的に、Yの競業避止義務、善管注意義務、
忠実義務違反に基づく損害賠償、またはY等が有する競業会社
の株式(正確には、A会社とX会社との合併により割り当て
られたX会社の株式およびB会社とX会社の子会社であるC
会社との合併により割り当てられたD会社の株式)の引渡し等
を求めて訴えを起こした。
【判旨】請求認容。
(1)競業避止義務違反について
 YがA会社の事実上の主宰者としてこれを経営してきたこと、
 B会社及びD会社の代表取締役としてこれらの会社を経営した
 ことは、第三者であるこれらの会社のために、X会社の営業の
 部類に属する取引をしてきたことに外ならず、X会社に対する
 競業避止義務に違反する。
(2)善管注意義務、忠実義務違反について
 株主総会の認許なく行われた取締役の競業行為は、X会社に対
 する取締役としての忠実義務、したがって善管注意義務に違背
 する。
(3)委任義務違反について
 X会社と取締役Yとの間に子会社の設立という委任があったと
 みて、委任義務の履行として競業会社の株式の引渡を命じた。