デリバティブ 追い貸し
デリバティブで、企業に損させ、資金繰りを支援するため融資
する銀行の行状は、許されるのか。
急激な円高で金融派生商品(デリバティブ)の損失を出した
中小企業に、銀行が支援融資するという。昨年、国会で取り上
げられて金融庁が実態調査に乗り出したため、慌てて対策を講
じたようである。
デリバティブは外国の通貨や国債、株式など多種多様な金融商
品を組み合わせ、ある通貨が下がったならば、この国債は値上
がりするといった金融市場の統計的かつ経験則をもとに作られ
る。中小企業が軒並み損を出しているのは、為替デリバティブ。
例えば、1米ドルが110円のときに契約し、115円と5円
の円安になったときに3000万円購入する契約を結ぶ。輸出
企業などは為替の相場変動で損失が出ないよう、あらかじめ通
貨を確保しておき、円高になったときに備える。石油の先物取
引も、原油価格高騰を避けるために、安いときに購入価格を決
めて備蓄しておくのと同じ手法である。一概にこうした先物取
引(デリバティブ)が悪いわけではない。
ところが、2007年前後にこうした為替デリバティブ契約を
銀行と結んでいたため、昨今の急激な円高で当時の保有ドルが
価値下落。中小企業にとっての資金運用は「凶」と裏目に出て
しまった。本業で儲けが出ないからリスク商品でいくらかでも
利益を出したい中小企業と、融資を持ちかけても借りてくれな
いから手数料稼ぎのデリバティブ商品を売る銀行。景気低迷で
「本業回復」を忘れた結果ともいえる。
デリバティブなどのリスク性商品を販売する際には、購入者が
そのリスクを適切に理解していなければ売ってはいけないと、
金融商品取引法で定められている。しかし、金商法では自らが
「プロ投資家」として購入すれば、銀行は詳細な商品説明はし
なくていいことになっている。中小企業サイドがプロを自認し
購入したとすれば自己責任だが、デリバ購入に二の足を踏んで
いた中小企業がメーンバンクから「買ってくれ」といわれれば、
断れるはずはない。いまになって損失を出した中小企業に、支
援融資をするというのは、証券業界で大問題になった、「損失
補てん」と同であると指摘されても致し方あるまい。
メガバンクだから許されるという摩訶不思議な日本の金融風土
である。