以前記事を掲載した、問題の企業の「石山GatewayHoldings」(以下、ゲートウェイ)が、なぜか株式市場の過度な期待を受けている。同社は赤字続きの死に体企業。社長の三木隆一は仕手銘柄のシルバー精工の元取締役。ファイナンシャルアドバイザーの星野智之がファイナンスをした企業でもある。「漂流企業」として業界で有名なプリンシバルや、上場廃止したワールドロジ、ECI、「適時開示アワード」で不名誉な受賞をしたインスパイアーなど、星野がファイナンスを手掛けた企業は軒並み不幸な末路を辿っている。銀行も手を出さない企業であるにもかかわらず、PERは1000倍を維持している。市場全体の高PERランキングではトップ10にランクイン。ジャスダックでは堂々の2位である。
■仕手的な相場形成
 今年1年間を振り返ると、年始からゲートウェイはIRを連発してきた。今年2月に株式100分割とハワイに旅行業関係の子会社設立。3月にはアパレル事業の株式会社マーファスを買収。4月はメーカー事業の東京電装株式会社の買収。5月は不動産業に進出し、5月末には簿価の3倍近い値段で物件を売却して黒字化を果たした。M&Aはまだ続く。7月には大株主の石山久男が経営する「VanaH」の水販売開始、化粧品・美容関連用品販売事業への進出。8月は発電事業の開始である。9月には、2月の100分割からさらに100分割を行うと発表。10月には東京マスターズを買収し五輪関連事業に進出すると発表している。11月には業績予想を上方修正し、当初予想より50%増額するという大見得を切った。話題に事欠かない企業である。
 こうした仕手的なIR活動に吸い寄せられた素人投資家によって、現在の高株価が形成されている。しかしながら、当サイトで述べた通り、ゲートウェイは極めて疑惑の多い企業である。来年1年間ははたして上場維持できているのだろうか。
■曰くつき「発電事業」の内実
 具体的に検証するにあたって、11月に発表された第一四半期決算短信を見てみよう。
 連結売上高は前年比の700%増で黒字である。異常な成長を遂げているように見えるが、売上高の85%はメーカー事業のもの、東京電装のM&Aによる業績寄与がほとんどである。アパレル事業は赤字、その他のセグメントに分類されている不動産、旅行、化粧品・美容、「VanaH」の販売などは赤字だ。メーカー事業以外は失敗していると言える。
 第1四半期のメーカー事業売上高は571,025千円である。㈱SPCの昨年度の売上高は327,729千円であるから、三か月分だと81,932千円。東京電装㈱は年間1,100,829千円売り上げていたとのことで、3か月分は275,205千円となる。二社の合計は357,137千円となるので、M&Aの単純な影響だけでなく、急激な収益拡大があったものと思われる。ゲートウェイはこれについて、「㈱SPCにおいて、新たにディーゼル発電機の購入及び販売を行ったこと等により、大幅に収益が拡大しました」と説明している。つまり2億円近い増加分は、㈱SPCの発電機の売り上げというわけだ。
 しかし、㈱SPCの登記の目的事項に「発電・発電機の販売・輸出入、発電コンサルタント」が追加されたのは9月27日である。定款にさえ載ってなかった事業を開始してすぐ2億円近い売り上げを作ることなど現実に可能なのだろうか。
 ゲートウェイは四季報などで「グループ会社によるバイオディーゼル発電機の販売設置やメンテナンス事業が好調」などと持ち上げられている。11月の上方修正の主な理由も、このバイオディーゼル発電関連事業である。ゲートウェイがこの事業を開始したのは今年8月である。上方修正のIRによると、5月に設立した資本金300万の孫会社「GW鹿島発電株式会社」が9億円の売上を計上するのだという。
 この発電関連事業の連携先が「一般社団法人全国発電事業推進機構」という社団だという。聞こえはパブリックな印象を持つが、今年2月に設立されたばかりで役員が1人しかいない法人である。同事務所には今年1月に設立された「株式会社RODINIA」という太陽光関連の事業を掲げている会社と、「株式会社テクノ・ラボ」という同所に登記されてない団体が同居している。機構のホームページは存在するが、具体的な事業はほとんど記載されていない。11月には代表に高野守という民主党の元議員が就任したが、ゲートウェイ周辺には自民党の山本幸三といい、よく政治家が現れるものだ。
■倒産か粉飾か――第一四半期決算を見る
 決算短信を眺めていると、ゲートウェイは明日にでも倒産するのではないかと危惧される。売上や資産の伸び率に対して、仕入債務が激増しているからである。ゲートウェイの支払手形及び買掛金は854,296千円に対して、現金・預金は154,540千円、受取手形及び売掛金は525,137千円である。売上債権を全部かき集めても決済できない債務がゲートウェイにはある。
 M&Aにより子会社化した㈱マーファスや東京電装㈱の決算が反映されている前期第四四半期(今年3月から6月末まで)は、売上高は765,707千円、売上原価600,124千円、売上総利益165,579千円となる。第一四半期の売上高は668,008千円、売上原価524,735千円、売上総利益143,273千円となる。売上が減少しているので、7月から9月末までに行われたM&Aはこの場では考慮しないこととする。
 売上はむしろ減少しているのにもかかわらず、前期第四四半期から第一四半期にかけて、売上債権は314,528千円から525,137千円に、棚卸資産は174,853千円から624,583千円に激増している。仕入債務も238,627千円から854,296千円となった。
 売上高が微減している状況において売上債権が約2億円(66%増)も増加する理由は、取引先の回収状況が悪くなった(倒産など)か、押し込み販売あるいは架空売上計上くらいしかない。前述のとおり、売上の4割程度を占めている発電事業が怪しい以上、ゲートウェイはこの点を説明すべきだろう。
 また、原価率がほぼ一定なのに棚卸資産が約3.5倍に膨れ上がっている。これは、不良在庫の発生か棚卸資産の水増しによる利益の過大計上が疑われる。
 仕入債務の増加については、おそらくジャンプした手形が多数あるのだろう。実際に支払利息は、有利子負債があまり増減していない状況にも関わらず、3,894千円から6,964千円と1.7倍になっている。
 このようにゲートウェイは見せかけの増収増益で投資家から金を集めているが、内実は明日の資金繰りで手一杯なのである。粉飾か倒産か――、来年にいずれかの事態が想定される。
■悪に手を染める幹部たち
 ゲートウェイは企業運営だけでなく人事も不安定だ。前回、澤田ホールディングスの記事で記載した、エイチ・エス証券を懲戒解雇になってナンバー2となった深井憲晃は、ゲートウェイで社長室長として長くIR担当をしてきたが、今年11月には別の人物に代わっている。11月28日に執行役員人事のIRがあり、星川樹という人物が社長室長となったらしいが、深井はどうなったのか。
 現段階で把握している限り、深井は様々な人物から金をつまみ、1000万円以上の借金を負っている。2010年前後に多数の人物に対して「どうしても助けてほしい」と泣きついて金を借り、返さずにいる。警察沙汰もしばしばあったようだ。深井は一時期、大山祐一という有名な詐欺師との交際もあり、そういうモラルの欠如した人物がゲートウェイのナンバー2に居座っているのである。
 ゲートウェイの幹部を務めた人物の中には、実際に詐欺師として活動し、お縄に掛かった不届き者もいる。㈱SPCの元社長であり、ゲートウェイ子会社がかつて業務提携していた株式会社コズミックを経営していた高井則之である。
〈社員権詐欺容疑 税理士を逮捕=静岡
実態のない「合同会社ユニバーサルタイヨウ」の社員権購入を巡る詐欺事件で、県警は22日、埼玉県川口市元郷、税理士の夷亀隆一容疑者(41)を詐欺の疑いで、東京都目黒区三田、会社役員高井則之容疑者(56)を組織犯罪処罰法違反の疑いで逮捕した。この事件で逮捕者は15人となった。富士宮署の発表によると、夷亀容疑者は仲間と共謀し、浜松市の60歳代男性に「合同会社ユニバーサルタイヨウ」の社員権購入をもちかけ、2011年12月~12年1月の間、2回にわたり現金計600万円をだまし取った疑い。高井容疑者は12年5月1日、詐欺グループがだまし取った現金48万円を受け取った疑い。〉(東京読売新聞2013年5月23日付)
 報道があった時点では容疑者だが、聞くところによると高井は現在服役中だという。詐欺行為が行われてから、逮捕されるまでの期間は、ゲートウェイと業務提携したり㈱SPCの代表となっていた期間と重なっている。現役の詐欺師が出入りしていたわけである。
 幹部たちが詐欺や借金踏み倒しをやっている以上、まともな企業とはとても思えない。決算も調べれば調べるほど怪しい。このような企業が平然と上場を維持していること自体、日本の株式市場のレベルを下げていると言わざるを得ない。東証も、金融当局も、日本の投資家もなめられたものだ。
(文中敬称略)