東証マザーズに最も古くから上場しているメッツ。解散宣言から一転、新東京グループの吉野勝秀の手により再起した。吉野が買収する直前の決算(12年3月期の第三四半期)は売上高15万という失笑の決算だったが、アベノミクスも追い風となり昨年には株価が買収前の10倍近い値を付けるなど、投資家の関心も高い。
 当サイトで以前掲載したマザーズ上場のMCJ(6670)に関するレポートでは、パソコン関連企業のMCJの事業に到底必要とは思えない銀座のボロ物件を売りつけた企業として登場している。この不動産取引でメッツは上方修正を発表し、20円台をさまよっていた株価が1か月ほどで100円台に高騰した。
 この取引の胡散臭さ、株価の異常な上り様を端緒としてメッツに関心を持っていたが、ここ最近になってその怪しさが露呈されてきている。
■大規模プロジェクトがご破算
 メッツは昨年12月26日に「不動産の仕入れにかかる重要な売買契約締結についてのお知らせ」にて、江戸川区の総額20億ものプロジェクトを発表。前日の25日に出来高が通常の7~8倍に上昇しているところを見ると、インサイダーが疑われる。
 今年2月13日には、「MET’S Revival Plan」という中期経営計画を発表。14年3月期の売上35億、営業利益22億4千万という予想を出した。吉野が買収する際の事業計画の売上(25億)を大きく上回る計画で、文字通りメッツの復活を印象付けた。
 ところがこの計画は、一か月足らずで頓挫する。
 仕入先が江戸川区の土地を取得できなかったのである。この仕入先というのが、セントレックス上場の株式会社NowLoading(以下、NL。現社名・太陽商会)の子会社NL不動産であることも明らかになった。
 NLは昨年10月22日に、メッツが取得予定の土地を含む総額38億(のちに34億と修正)を個人の安井繁から取得することを発表している。ちなみにこの日メッツの株価は過去一年間で最高値を記録し、出来高も通常の桁違いに上がった。メッツがこの土地を取得するという情報が漏れている疑いが深まる。
 NLは昨年8月の決算短信では総資産が1億7千万程度しかなかったため、取得資金は全額借入によって行う予定だった。しかし今年2月の第三四半期になっても借入が実行された形跡はない。
 それどころか、NL自体は2月25日に、社長の酒井勝一がNLの企業規模を大きく上回るダイドー技建を取得したことで、管理銘柄に指定。さらに3月11日に不正会計が明らかになるなど、内部のゴタゴタが続いている。
 そもそも、売上が4億程度で銀行などの支援もないNLが、38億もの大型プロジェクトを本当に行えるか疑問だ。この計画に丸乗りしたメッツの与信管理能力にも問題があると言わざるを得ない。取引実現を信じた投資家はいいカモだ。
■違約金を営業利益計上?
 江戸川区のプロジェクト失敗で、メッツは業績予想の修正を3月14日に出したが、ここにも奇妙な点がある。売上高は35億から16億6千万と大幅減となったのに、営業利益は2億24百万から2億76百万の増益なのである。
 メッツはNL不動産に対して、3月4日付で契約解除に基づく違約金4億2千万を請求している。それをもって「本件不動産にかかる違約金は当社の事業活動の結果であり、本日付で営業収入として全額計上いたしました」としているが、違約金などイレギュラーに発生する収入や経費は、営業外収入か、特別利益に計上するのが普通だ。
 ちなみにNL不動産はこの請求について「契約解除要件を満たしていない」として応じない構えだ。メッツはNL不動産と親会社のNLを「同一」と見なして3月18日に提訴したが、NLは3月24日にNL不動産を新宿区の個人に売却して連結から外し、我関せずの姿勢を取っている。NL不動産の総資産は13年3月期で1億4千万、過去三年間の売上はゼロである。仮にメッツの主張が認められたとしても、回収できる額は微々たるものになるだろう。
 こうした無理繰りの会計処理の理由は、おそらくストックオプションである。1月16日付「募集新株予約権(有償ストックオプション)の発行に関するお知らせ」、3月11日付「募集新株予約権(有償ストックオプション)の発行内容確定に関するお知らせ」に記載されている通り、メッツ役員は行使すれば現在の発行積み株式総数の10%に相当する420万株分のストックオプションを条件付きで得ることができる。その条件というのが、ストックオプションの半分は14年3月期の営業利益が2億24百万に達すること、もう半分は翌々期に同額の営業利益を出すことである。
 実現可能性の疑わしい計画をぶち上げ、それが頓挫し株主に迷惑をかけておきながら、経営陣はうま味に与ろうというわけだろうか。社長の秋山賢一は六本木でベンチャー企業関係者と羽振りよく酒を飲んでいるという噂だが、果たしてそれがいつまで続くのか…、当サイトでは、今後も関心を持っていきたい。
(文中敬称略)